車に対する想い

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マニュアル車にすればよかったなあ。

私はマニュアル車が好きです。加速の時に気持ち良く自分の思い通りにエンジンが回転しているのがわかるからです。

車にはお金をかける事が出来ません。でも車のエンジン音はバックグラウンドのようで、嫌でも気が付きます。

私と車、思えば長い歴史があります。最初に車を買ったのは20才の頃。警察学校の生徒を知人が紹介しておつきあいをしていた時、足が無いのでチラシにのっていた98万円の車を買ってもらったのが最初です。あとで兄弟や友達からひどく言われました。今度車を買う時には相談してくれ、こんなひどい車を選ぶのなら。という事でした。

その車は兄のおもちゃになり、タイヤを付け替え、シフトノブやハンドルを付け替え、タコメータを取り付け、私のような小娘が乗るにしては小細工を施した妙な物体が出来上がり、荒川の河川敷で同僚と競争したりしたあと、仕方なく乗廻していましたがいつしか放置、処分となりました。

若い頃は時間が有り余っていたようで、この最初の車で友達とディズニーランドへ行った時の事を思い出しました。

朝早く百合丘から世田谷街道を抜けて千歳烏山の友達を拾って、石神井公園の友達の家へ着いたのがお昼過ぎ。ディズニーランドへ向かったら渋滞で到着したら暗くなりかけて、エレクトリカルパレードを見て閉館。帰路は下を通って、石神井へ着いたのは夜中の2時過ぎ。警察に質問されたりしてやっと家へ辿り着いたのが何時だったか記憶にありません。これはほんの一例で、暇だったんだなあ。若い頃やる事は無駄が多くて結構面白いですね。そうやって学んでいくものなんでしょうね。

兄に、”私はタコメーターしか見ません”と言え、と言われていました。エンジンの回転はそれほど重要だと教えたかったようです。

独身で自宅から通っていた頃は(一番生活に苦労のない時期)日産マーチにも乗りました。これもしばらく乗ったあと親が処分しました。

東京では車は必要なく、したがって車にも興味を持たず(持ってもただ羨ましくなるだけだから)渡米してから本当の苦労が始まりました。

最初は夫のシビックでもう15年落ち、ブレーキを掛けるときゅるきゅると雑音がし、オートショップへ何回も持ち込み、修理代もバカ高く嵩み、子供が新生児の頃にクーラーが壊れ、暑いフロリダで熱風にさらされて仕方なく三菱のアウトランダーを買いました。乳児を抱いていたので私は商談には加われず、17%の金利でローンを組まされました。夫のクレジットヒストリーが悪かったからです。

私がビザの関係で子供と一時帰国している間に夫はリファイナンスの勧誘電話にまんまとひっかかりさらに残高を増やしました。

そして赤信号で止まっている車にぶつけ、元気でぴんぴんしている相手からカイロの治療費60回分と医療費、慰謝料などを請求され保険会社の弁護士が入りました。(心臓に悪かったです)。アパートで夫が後ろも見ずにバックしたら真後ろに古いアメ車が止まっていてバンパーをやられました。日本語学校へ行くと赤い車は馬鹿がのっている、保険も高い、とお母さん方5人ぐらいの雑談で笑われました。修理もできないのかと笑われていたのも知っています。

2台必要なのでカーマックスなどを何件も回りました。一人のファイナンス担当者は、提案してきました。私はジューイッシュでスマートだ、こうしたらどうか。と。それはなんと、アウトランダーのローンが残っているのを無理やり元のディーラーへ戻し、車を置いて戻ってくる。これ以上払えません、という。要するに破産。

そしてクレジットヒストリーは3年で戻る。

今手元にヤリスが2台ある。これを毎月400ドルの払いで売ってあげる。そのあとでそうしろ。というのです。

これに乗ったら困るのは私たちです。本当に魅力的ですが危険な話です。頭の良さっていろいろあるけど‥。絶句しました。電話は結局しませんでした。

地道に本田のディーラーでエジプトからの移民のセールスマンにリファイナンスの手続をしてもらい、無事に合法的にトレードできました。とても良い人だったのですが、エジプトの聞きなれないアクセントが強く、英語に弱い私には殆ど理解不可能でした。今では慣れてきましたが、当時はまだ免許をとったばかりでしたので。

免許といえば、実技試験で車庫入れをしたら横に乗った検査官が褒めてくれました。ちょっと嬉しかったので記しておきます。

そのホンダもいろいろありました。まず買って一週間目、夫がエアポートの駐車場で柱にぶつけ、バンパーを壊しました。500ドルのディダクティブル(免責範囲の金額)を払い、修理しました。その後、まだ夫を信用していたので夫が通勤に使っていました。

マイアミに引っ越して私が通勤に使い始め、ほどなく事故に遭いました。頭が大きいからか、日産のピックアップトラックに高速で追突された衝撃で首の第三頸椎がずれて神経に触っており、時間の経過とともに両手がしびれてきました。勤め先のオーナーには何ともないと言っていました。仕事を失うのが(あるいは時間削り)生活に響くことを避けなければならなかったからです。思えば健康で無傷である事が前提で暮らしが成り立っている、この薄氷を踏む状態に、慣れてしまっていたのでした。オーナーにフロリダ州の法律でこういう時にはロイヤーを使って書類を出して、保険会社からお金をもらうのが普通なんだよと笑われました。前後してロイヤーから警察の事故の記録をみてこのポリスレポートはおかしい、不完全だと連絡が来ました。こちらも大変でした。面会に出かけるのにも時給で働いていたのですべて減給されました。でもお得な情報も沢山知る事が出来ました。例えば、交通違反でチケットを切られた時には、お金を払わない方が良いという事も知りました。お金を払うという事は自分の過ちを認めたことになり、そしてレコードにも残ってしまいます。ロイヤーを使って書類を出せば例えば違反が250ドルの場合、70ドル位の弁護士料でレコードも残らずチケットの違反も消えます。馬鹿正直は損なのです。話がずれましたが、無知は損で気の毒な結果になってしまう事が世の常なのでしょうね。本当に損な立場です。

保険で車は何とか修理できました。元通りになりましたが私にも車にも事故歴はつきます。修理の明細を見ると人件費がかなりの額を占めていました。部品代よりも高いのですね。という雑談をしたら、歪んで受け取られ、”リペアマンのくせに時給が高い?”と返事をされました。そういう意味では無いのですが、笑ってごまかして終わりました。あまり会話がかみあわないなと思ったので。そこで働いていた同僚でとくに資格は無いけど経験が豊富なマスターを持っている男性が私の4倍以上の時給で働いていました。こちらは学歴と経験がとても重要なので、仕方がありません。

そしてマイアミは良く道路が水没します。コンディションもこちらの砂漠地帯とはくらべものにならないほどダメージが違います。引っ越しはマイアミからLas Vegasへ無事移動ができましたが、実は前からしばしばトラブルに見舞われていました。ラスベガスでもトリプルAを何度も呼び、修理もマイアミでステアリング、ラスベガスでエンジン系統、バッテリーの接触などさまざまなものを行い、それぞれ1000ドル近くかかっています。中古車は保障も無くすべて実費です。

そのたびに小さい子供と立ち往生、お友達の誕生会へもタクシーで行かなければならなかったりレンタカーを借りたりしました。

夫はドッジにのっています。マイアミヒートが優勝して街中がちょっと変な夜、仕事を終えて空地でいつものようにシートを倒して仮眠していたらしく、強盗(若者の女性たち)に追い出され車を持って行かれました。

私物を入れたリュックもすべて無くしましたが幸いにして携帯と財布だけはポケットに入れていましたので、手ぶらで家に戻ってカギもなくしばらくドアの前で座っていました。

車は見つからないのでしばらくはレンタカーを借りて通勤していましたが、一定期間を過ぎるとレンタカー代も自腹になりました。そんなある日、警察から電話がかかってきました。

車が見つかったので見に行きますと、車内は食い散らかしたごみが散乱し、シートの一部はこげ、四角くナイフで切り取られています。悪臭が立ち込め、乗れる状態ではなかったので修理工場ですべて点検して整備してもらいました。

このように苦労はさまざまでしたが、子供に車体に傷をつけられたり駐車場で窓を割られたり、昨日もボディに4か所スクラッチが付いていたり、さまざまないやがらせを受けても先日買ったこれが私の最後の車、という意味のトヨタはこれまでの苦労を報いてくれるにふさわしい、信頼のおける、私にとっては世界で一番信頼のおける車となっています。

車が無いと仕事にも行けない、子供を定時に迎えに行けないと延長料金を取られる、時間通りに動ける事が生活の大前提となっている為、とにかく故障のない保障の利くポピュラーなものとしてカムリが第一候補でした。これまでのアメリカ暮らしでも知り合いにカムリ愛好者が多かったようです。(フィリピンやインドネシアの方です)テキサスおやじもカムリを褒め称えていました。

私が選んだこれは本当に良い車だと思います。

飽きる事のない、これから先10年でも15年でも乗れるだけ乗りたいと思う車です。ローンもゼロ金利で適用され月々払ってさえいれば誰も持って行きません。

これに乗って家族でカリフォルニアへも2回行きました。とても快適でした。

こんなに快適で良いのかと思います。

本当はSUVを買うべきなんです。家族がある人は自転車、キャンピング、などの用途にかなうものを選びます。そうするとカムリより高く、ガス代もかかります。

私にはそのようなお金を落としながら走るような贅沢は許されないと思っています。

誰かが傷をつけたのに気づいたのは今朝10時30分頃でした。

とてもショックでした。

毎日毎日確認してから乗っていました。

誰がこのような事をするのでしょう。

する瞬間にはどのような心なのでしょう。

想像もつきません。

ただ悲しいです。

子供はどうしてそんなちっぽけな傷でと言います。

でも日本人だからでしょうか、車体の傷というのに本当に敏感です。

夫はありえないぐらい鈍感でした。新車に家具を押し込み、傷をつけたり、ロックアウトした車をこじあけようとしたり、買ったばかりの一週間後にバンパーをはずすほど柱にぶつけたり、本当に信じられないような間違いをします。

そのため家族用の車なので私が運転し、定時に子供を迎えに行けるよう、ハイウェイをぬって運転を続けています。

車を買っても誰にも一言も話していません。そういえば会社の人一人にだけ長いローンを組んで(ホンダが壊れたので)新車を買ったんですが‥ということをちらっと言いました。自慢話ではなくローンを抱え込んでしまった、という生活上での緊張感を話しただけです。よくあるフェイスブックに運転している自分の写真を載せたり車の写真を載せたりしたこともなく、親にも言っていません。一度だけ渡米してきたばかりの会社の女の人を送ってあげたのはお菓子をもらったお礼のつもりです。

会社の人は全員駐車場に停めている私の車に対して当たり前ですが一言のコメントも無いです。(気付かない振りだと思います、それか否定?)別に誰も何も言いません。もちろん私も人の車には何もコメントしません。古い車に乗っていて修理で遅刻をする人も多く、みんな新しい車が欲しいのだとは思いますが、買うか買わないかの差だと感じます。(私だって買っているのだから)そこまでお金を出して買う必要もないと思っているからです。私は子供を定時に迎えに行ったり時間内に移動したり、子供の集まりに送って行ったりしたときに恥ずかしくないように(ほんの少しの見栄は必要だと感じます)しているだけです。マイアミでは白いベンツかそれに似たような大型のSUVが主流でしたので、カブスカウトの集まりなどでも私のホンダはずいぶん目立ちました。お友達(韓国や中国の方)はドイツ車が多かったので私がカムリに乗ってもだれも何も感じないだろうと思いました。

私は自分が困らないように自分と子供を守る為にしていることなので、何も後ろめたいことは無いと思っていますがやはり日本人同士だと生意気な、とでも思われているのかも知れませんね、推測ですが。思い起こせば新車に乗り換えてから同じタイミングで駐車場に停めてエレベーターに乗り合わせても何故だか相手が憮然とした表情になっているような気がします。私の気にしすぎかもしれません。少し自分でもうしろめたいのでしょうね。もう一台あればこれは家に置いておけるのですが。皆家に良い車を隠して、通勤には古い車を使いますがそれが出来ないんです。

それぞれが何を考えているのかは本人しか分かりませんし自由ですから。(日本人同士なのですが、こういう場合にはどういう風にすれば良いのか全くわかりません。日本人学校では良い車が当たり前でした。一台だけサイオンがチープな車として目立ったぐらいです。このような気まずさはこれまでには無い経験です)

私としてはこのような経験や立場(頼れる親戚も友達もいない)から迷惑がかからないようにしているだけなのですが。

そのうちに家も必要になります。家があれば何でもとっておけるのですが、無理に処分したものが沢山あります。独身時代から沢山の思い出の品を売ったり寄付したりあげたりしました。思い出しても勿体ない事をしました。火事にあった人もいるのでこればかりは自分の責任だとしておきます。

天井ロフトのある家が欲しいなと思っています。もちろん小さいピアノも必要です。子供が成人しても戻ってこれる場所として残してあげたいなと思います。